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地域共同テクノセンター広報 主な活動 | 和歌山工業高等専門学校

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(1)

独立行政法人 国立高等専門学校機構

⃝最近のテクノセンターの活動について

⃝固体の酸性・塩基性(角田範義校長 研究講演要旨) ⃝メタンハイドレートを題材とするエネルギー教育と  地域貢献の取り組み

⃝平成28年熊本地震現地調査報告

─ 特集 ─

広報

シーズ集

vol.26

2017

独立行政法人 国立高等専門学校機構

地域共同テクノセンター

  第

  二

 

  地

 

  広

  VOL.26

(2)

和歌山高専に対する期待は高まっています

高専に対する期待を昭和39年の和歌山高専設立の時と50年後

の現在を比べても、若く優秀な技術者を養成して社会に送り出して

ほしいという点では変わっていません。ただし、当時と比べ、高専

が位置している「和歌山県=地元」を強く意識しなければならない

時代となってきています。和歌山高専が今後強化すべき取り組みと

して、私は第1に、地域への貢献、第2として、地域に的を絞った

新産業の創生と牽引する人材の育成であると考えています。

高専の特徴は、学生が早期に研究を始めることができるという点

にあります。技術への意識付けを高めるために早期に行うこの制度

が、学生を巻き込んだ地域企業との協働研究により地域活性化の糸

口になるのではないかと思っています。しかし、現在の産業基盤を

優先すると、

時代の流れから取り残された時、

その産業は衰退します。

常に世の中の動向に注目し、新産業も念頭に置く柔軟な教育・研究

を続けることが地域の振興につながると考えています。

地域共同テクノセンターは、教育研究機能の向上と地域経済の活

性化を図る拠点として、研究成果発信の充実、産官学技術交流会等

との連携強化など、和歌山高専の特色を活かした活動について発信

しています。地域企業との連携推進を目指した「和歌山工業高等専

門学校産学官技術交流会」

「和高専・次世代テクノサロン」の定期

的な開 催と講 演 会,講 習会の開 催、和高 専 技 術 懇 話 会だけでなく、

教員の技 術 シ ーズを公開し、様々な技 術 相談にも対 応しています。

さらに、様々な分野で活躍されている経験豊富な本校同窓生の方々

に本校の教育や地域貢献に協力していただく本校同窓生の登録制人

材バンクシステムを構築しています。登録いただいた方は「和高専

アドバイザー」に就任し、それぞれのスキルや希望に応じて、本校

の技術者教育や地域連携事業などでボランティアとして協力いただ

いております。そして本校は、

「地 ( 知 ) の拠点大学 (COC)」事業や

和歌山大学が中心となって行っている「地(知)の拠点大学による

地方創生推進事業(COC+)

」のメンバーとして地方公共団体や企業等

と協働し、学生にとって魅力的な働く場の創出・開拓と、地域が求

める人材の育成を行う事業も推進しております。今後も地域と共に

(3)

特  集

……… 1

最近のテクノセンターの活動について……… 1

固体の酸性・塩基性(角田範義校長 研究講演要旨)……… 3

メタンハイドレートを題材とするエネルギー教育と地域貢献の取り組み…… 5

平成 28 年熊本地震現地調査報告 ……… 7

研究報告

……… 9

新任教員研究紹介(知能機械工学科田邉助教) ……… 9

         (総合教育科原助教) ……… 10

技術レポート……… 11

(山東准教授、岩崎助教、河地准教授、青木助教、 森岡准教授、櫻井技術職員)

活動報告

………17

公開講座および出前授業……… 17

研究助成金受入状況・技術相談……… 20

次世代テクノサロン……… 21

教育研究奨励費……… 22

資  料

………24

  地域共同テクノセンター概略……… 24

技術相談の分野別研究者一覧……… 25

シーズ集……… 28

(4)

最近のテクノセンターの活動について

地域共同テクノセンター長 土井 正光

1. はじめに

今春から再度、地域共同テクノセンター長に就任さ せていただくこと成り、気持ちを新たに取り組む所存 です。昨年度は、産官学技術交流会の開催や各種イベ ントでの広報・情報収集、出前実験や公開講座の開催 そして外部資金獲得の推進と言った本来の活動に加え、 地方創生の一環である「地(知)の拠点(COC)事業」 に関する活動も一昨年度に続いて実施しました。また、 高専機構へ申請した企業技術者活用プログラムも採択 され、講演会等を実施しました。ここでは、これらの 項目について紹介させていただきます。

2. テクノセンターの活動

(1) 産官学技術交流会の開催

本校が主催する和歌山高専産官学技術交流会および 南紀熊野産官学技術交流会を中心に参加企業の方々と の交流を深め、さらにテクノサロンでの本校技術シー ズの紹介や企業ニーズの掘起こしを行いました。今後 も継続し、共同研究や受託研究等へつなげて行きたい と考えています。

(2) 各種イベントでの広報・情報収集活動

平成28年度では国際フロンティアメッセ(9月3~

4日)、わかやまテクノ・ビジネスフェア(11月18日)、

グリーン・イノベーションフォーラム(12月22日) そしてアグリビジネス創出フェア2016(12月14~16 日)など県内外の企業向けの催しに多くの教員を派遣

(3) 出前実験や公開講座等の開催

出前実験では教職員そして学生が実験機材を持って 各地の教育委員会や自治体等へ赴いて、また公開講座 では参加者に本校まで足を運んでいただいて、子供た ちに普段できない体験をしてもらい、楽しんでもらう ことでものづくりに興味を持ってもらうよう努力を重 ねています。一昨年より実施している COC 事業の関 係もあり、教職員よりも学生主導の催しが特に増えて います。

(4)外部資金獲得

教育研究奨励助成の実施による教職員の研究力の向 上、そしてFD講演を通じて科学研究費補助金をはじ め共同研究や受託研究などの外部資金の獲得を推進し ています。最近では、運営交付金の大幅な削減が見込 まれる状況から、外部資金獲得は重要な位置付けにな

(御坊商工祭への出展の様子)

(アグリビジネス創出フェアでの出展の様子)

(和高専産官学技術交流会定時総会の様子)

テクノセンター長からのご挨拶

テクノセンター長からのご挨拶

テクノセンター長からのご挨拶

今春から再度、地域共同テクノセンター長に就任さ

せていただくことと成り、気持ちを新たに取り組む所

存です。昨年度は、産官学技術交流会の開催や各種

イベントでの広報・情報収集、出前実験や公開講座の

開催そして外部資金獲得の推進と言った本来の活動

に加え、地方創生の一環である「地(知)の拠点(COC)

事業」に関する活動も一昨年度に続いて実施しました。

また、高専機構へ申請した企業技術者活用プログラム

も採択され、講演会等を実施しました。ここでは、こ

れらの項目について紹介させていただきます。

本校の支援組織である和歌山高専産官学技術交流

会および南紀熊野産官学技術交流会を中心に参加企

業の方々との交流を深め、さらにテクノサロンでの本

校技術シーズの紹介や企業ニーズの掘起こしを行い

ました。今後も継続し、共同研究や受託研究等へつな

げて行きたいと考えています。

平成28年度では、国際フロンティアメッセ(9月3

~4日)、わかやまテクノ・ビジネスフェア(11月18

日)、グリーン・イノベーションフォーラム(12月22日)

そしてアグリビジネス創出フェア2016(12月14~16

日)など県内外の企業向けの催しに多くの教員を派遣

出前実験では、教職員そして学生が実験機材を持っ

て各地の教育委員会や自治体等へ赴いて、また公開

講 座では 参 加 者 に 本 校まで 足を運んでいただいて、

子供たちに普段できない体験をしてもらい、楽しんで

もらうことでものづくりに興味を持ってもらうよう努力

を重ねています。一昨年より実施しているCOC事業

の関係もあり、教職員よりも学生主導の催しが特に増

えています。

(5)

− 2 − 26

3. 地(知)の拠点事業(COC)の実施

COC事業は、大学を中心とした地方創生を目指した

文部科学省の事業の一つで、高専では本校を含め舞鶴、 広島商船、八戸そして奈良の5校のみがCOC校とし て認定されている重要な取組です。

全国的に見ても人口減少の傾向が大きい和歌山県に おいて、本校に対する期待も大きいことから「わかや まを知る若手エンジニアを育成し地域の未来を切り拓 く」をスローガンに地元指向のエンジニアを育成する べく様々な活動を行っています。昨年度の2年生の「わ かやま学」では、和歌山の歴史や文化を学習し、さら に見学や体験をした後に学生自身がその成果をまとめ、 成果報告会(2月1日)を実施しました。

4. 企業技術者活用プログラム

例年各校が高専機構へ申請している企業技術者活用 経費の募集要項の主旨に、昨年度は「産学連携コーデ ィネーター等を活用した地域貢献につながる教育事業 の推進」という内容が追加されました。つまり、先の 文部科学省のCOC 事業と同様に高専も今後は積極的

に地方創生に関って行かなければならないと言うこと が強く示されたわけです。

本校が申請したプログラムは「わかやま中南部の地 域創生」で、県内でも本校が位置する中部や南部は農 林水産業が特に盛んな土地柄ですが、少子高齢化や過 疎化の傾向が激しく、先行きが不安視されています。 そのような中で、本校が企業技術者と一体となり、様々 な地域課題の解決にあたると言う内容が認められまし た。そして実際は、多くの秀でた企業技術者や専門家 にクラス単位での講演を個々の希望に沿って行っても らい、事細かな質問に応じていただきました。その結 果、多くの学生の興味が引出せたのではと考えていま す。

5. おわりに

最近では、文部科学省に加え高専機構まで地方創生 に重きを置いているようです。一方で、本校は10年以 上前から教育理念の中で地域連携の重要性をうたって 来ました。従い、今後はこれまで以上に地域と向き合 い、学生も交えた形で技術相談や共同研究を積極的に 行って行くことが重要であると考えています。

今後とも、ご協力の程よろしくお願いします。

(教育研究奨励助成研究発表会の様子)

テクノセンター長からのご挨拶

テクノセンター長からのご挨拶

テクノセンター長からのご挨拶

最近では、文部科学省に加え高専機構まで地方創生

に重きを置いているようです。一方で、本校は 10 年以

上前から教育理念の中で地域連携の重要性をうたって

きました。従って、今後はこれまで以上に地域と向き合

い、学生も交えた形で技術相談や共同研究を積極的に

行って行くことが重要であると考えています。

今後とも、ご協力の程よろしくお願いします。

4.

(6)

特集

特集

特集

(1) pH( アレニウス:Arrheniusの酸性、 塩基性)

(4) 超強酸

(和歌山県科学技術者協会及び和歌山県高分子工業振興会主催「第29回合同講演会(平成29年2月8日)」講演要旨

(7)

ない。残念なことに滴定に用いる n-ブチルアミンは共役酸

の値がpKa=10.62のため、指示薬の共役酸型をもとの塩基

に戻すことができるのは、 pKa= -8.2の指示薬までである。

酸化物と複合酸化物の固体酸強度

(田部浩三:講談社、金属酸化物と複合酸化物より)

酸化物単体に比べ複合酸化物の酸強度が増すことを説

明するため田部の理論(M1-O-M2結合による電荷不均衡)

が提案されている。

(2)酸点の発現に関する我々の実験と考察

単独の酸化物でもM-O-M結合中に電荷の過不足が生じ

ることがある。金属酸化物の結晶中には相当数の酸素欠陥

があり、酸素欠損による電子的性質への影響は、結晶粒子

径が小さくなるほどより強く反映される。この電子的性質へ

の影響は金属酸化物中のM-O-M結合の電荷の不均衡に

及ぶこともあり、この場合には金属酸化物の酸特性は酸化

物の粒子径に依存することになる。

実験例1: TiO2

チタンアルコキシドの加水分解の制御で粒子径を変える

この様に酸化チタンの酸強度はその粒子径が小さくなれば

なるほど強くなることが確認された。また、Lewis酸のみが

形成していることが判明した。

実験例2: TiO2-SiO2

Ti(IV)-O-Si(IV)結合形成をめざした調製法による試料は Ho=-5.6の強い酸点が存在し、Brønsted酸のみであるという

結果が得られた。またこの試料の焼成温度を上昇させても

酸化チタンの相変化(anataseからrutile)が起こらないことよ

り、酸化チタン(anatase)粒子とシリカ粒子との界面では強

固なTi-O-Si結合が生成し、この結合のためrutileへの相変

化が妨げられていると説明できる。この結合が強いB酸点と

して働いていると思われる。

ちなみにそれぞれの粉体を機械的に混合したものは、

容易に600℃で相変化が起こり、新しい強酸点の発現は見

られなかった。

実験例3: TiO2-Al2O3

Ti(IV)-O-Al(III)結合形成をめざした調製法による試料も Ho=-5.6の強い酸点を示したが、何故かLewis酸のみであ

った。X線による結果では、シリカの場合と比べ容易に酸化

チタンの相変化が観測された。このことは、酸化チタンーア

ルミナの界面にTi-O-Al結合が存在せず、または存在した

としてもそれほど強くないことを示している。そのため、この

複合酸化物で観測された新しい強酸点は、アルミナのネッ

トワーク中に取り込まれた酸化チタンが超微粒子であること

に起因すると考えられる。

酸点密度の比較(単位表面積当たりの酸量)

○酸化チタンの場合、粒子径の減少により酸強度は大きく

なり、欠陥形成によるLewis酸のみであった。

○酸化チタンーシリカでは、それぞれの単体の酸点密度の

相加平均より大きくなり、Ti-O-Siの IV価イオンによる結合

の生成により新しい酸点の生成することを示しているが、酸

化チタンーアルミナでは、相加平均値と同じかむしろ小さ

い値となったことからIVイオンとIIIイオンによる結合を伴っ

た新しい酸点の生成は起こらないことを示している。

固体の 酸特性に つ い て は 、 理論を 含め 特性( 発現、 強

度)の設計を目指す研究は進んでいるが、「塩基性」につ

いてはなかなか進展が見られない。それは、超塩基性物質

も含め塩基強度を判定する方法が難しいことにある。固体

の酸性、塩基性は実は新しい研究課題である。特に、新し

い概念に基づいた判定手法の発見が望まれる。

参考文献

田部浩三, “金属酸化物と複合酸化物”, 講談社(1978)

田部浩三, 野依良治, “超強酸, 超強塩基”, 講談社サイエ

ンテフィック(1979)

酸化物 酸強度:H0(量、mmol/g) 酸化物 酸強度:H0(量、mmol/g)

TiO2

ZnO

Al2O3

SiO2 ZrO 2 MgO +4.0(0.057) +4.8(0.006) +3.3(0.075) +3.3(0.066) +1.5(0.060) +4.8(0)

Bi2O3

Sb2O5

PbO CdO SnO 2 +4.0(0.250) +3.3(0.055) +4.8(0.065) +4.8(0.289) +4.8(0.133)

複合酸化物 酸強度:H0(量、mmol/g) 複合酸化物 酸強度:H0(量、mmol/g)

TiO2-Al2O3

TiO

2-SiO2

TiO2-ZrO2

TiO2-MgO

TiO2-Bi2O3

TiO2-CdO

TiO2-SnO2

-5.6(0.060) -8.2(0.053) -8.2(0.05) +3.3(0.022) +1.5(0.025) -3.0(0.064) -3.0(0.018)

ZnO-Al2O3

ZnO-SiO 2

ZnO-ZrO2

ZnO-MgO

ZnO-Sb2O5

ZnO-Bi2O3

ZnO-SnO2 +1.5(0.166) -3.0(0.042) +1.5(0.144) +4.8(0.025) +4.0(0.011) +3.3(0.015) +4.8(0)

Al2O3-SiO2

Al2O3-ZrO2

Al

2O3-Sb2O5

Al2O3-CdO

-8.2(0.340)

-5.6(0.045)

+3.3(0.079)

+1.5(0.070)

*SiO2-MgO

*SiO2-CaO

*SiO

2-SrO

*SiO2-BaO

-5.6

+3.3

+3.3

+4.8

試料 比表面積[m

2 g

-1

] 粒子径[TEM:nm] 最高酸強度[H0] A

B

C

D

E

F(市販品)

335 140 105 94 81 39 5.5 6.5 18.0 19.2 25.4 150-230 -5.6 -3.0 +1.5 +3.3 +4.0 +4.8

試料 比表面積[m

2 g

-1

] 最高酸強度[H0] 酸点密度[molm -2

]

TiO2-SiO2

TiO2-Al2O3

TiO2

SiO2

Al2O3

326 224 120 665 184 -5.6 -5.6 -3.0 +3.3 -3.0 2.68 1.80 3.14 0.62 1.33

ない。残念なことに滴定に用いる ブチルアミンは共役酸

の値が のため、指示薬の共役酸型をもとの塩基

に戻すことができるのは、 の指示薬までである。

酸化物と複合酸化物の固体酸強度

(田部浩三:講談社、金属酸化物と複合酸化物より)

酸化物単体に比べ複合酸化物の酸強度が増すことを説

明するため田部の理論( 結合による電荷不均衡)

が提案されている。

( )酸点の発現に関する我々の実験と考察

単独の酸化物でも 結合中に電荷の過不足が生じ

ることがある。金属酸化物の結晶中には相当数の酸素欠陥

があり、酸素欠損による電子的性質への影響は、結晶粒子

径が小さくなるほどより強く反映される。この電子的性質へ

の影響は金属酸化物中の 結合の電荷の不均衡に

及ぶこともあり、この場合には金属酸化物の酸特性は酸化

物の粒子径に依存することになる。

実験例1:

チタンアルコキシドの加水分解の制御で粒子径を変える

この様に酸化チタンの酸強度はその粒子径が小さくなれば

なるほど強くなることが確認された。また、Lewis酸のみが

形成していることが判明した。

実験例2:

結合形成をめざした調製法による試料は

の強い酸点が存在し、 酸のみであるという

結果が得られた。またこの試料の焼成温度を上昇させても

酸化チタンの相変化( から )が起こらないことよ

り、酸化チタン( )粒子とシリカ粒子との界面では強

固な 結合が生成し、この結合のため への相変

化が妨げられていると説明できる。この結合が強いB酸点と

して働いていると思われる。

ちなみにそれぞれの粉体を機械的に混合したものは、

容易に600℃で相変化が起こり、新しい強酸点の発現は見

られなかった。

実験例3: TiO2-Al2O3

Ti(IV)-O-Al(III)結合形成をめざした調製法による試料も

の強い酸点を示したが、何故か 酸のみであ

った。X線による結果では、シリカの場合と比べ容易に酸化

チタンの相変化が観測された。このことは、酸化チタンーア

ルミナの界面に 結合が存在せず、または存在した

としてもそれほど強くないことを示している。そのため、この

複合酸化物で観測された新しい強酸点は、アルミナのネッ

トワーク中に取り込まれた酸化チタンが超微粒子であること

に起因すると考えられる。

酸点密度の比較(単位表面積当たりの酸量)

○酸化チタンの場合、粒子径の減少により酸強度は大きく

なり、欠陥形成による 酸のみであった。

○酸化チタンーシリカでは、それぞれの単体の酸点密度の

相加平均より大きくなり、 の 価イオンによる結合

の生成により新しい酸点の生成することを示しているが、酸

化チタンーアルミナでは、相加平均値と同じかむしろ小さ

い値となったことから イオンと イオンによる結合を伴っ

た新しい酸点の生成は起こらないことを示している。

固体の 酸特性に つ い て は 、 理論を 含め 特性( 発現、 強

度)の設計を目指す研究は進んでいるが、「塩基性」につ

いてはなかなか進展が見られない。それは、超塩基性物質

も含め塩基強度を判定する方法が難しいことにある。固体

の酸性、塩基性は実は新しい研究課題である。特に、新し

い概念に基づいた判定手法の発見が望まれる。

参考文献

田部浩三 “金属酸化物と複合酸化物” 講談社

田部浩三 野依良治 “超強酸 超強塩基” 講談社サイエ

ンテフィック

酸化物 酸強度:H0(量、mmol/g) 酸化物 酸強度:H0(量、mmol/g)

TiO2

ZnO

Al2O3

SiO2 ZrO 2 MgO +4.0(0.057) +4.8(0.006) +3.3(0.075) +3.3(0.066) +1.5(0.060) +4.8(0)

Bi2O3

Sb2O5

PbO CdO SnO 2 +4.0(0.250) +3.3(0.055) +4.8(0.065) +4.8(0.289) +4.8(0.133)

複合酸化物 酸強度:H0(量、mmol/g) 複合酸化物 酸強度:H0(量、mmol/g)

TiO2-Al2O3

TiO

2-SiO2

TiO2-ZrO2

TiO2-MgO

TiO2-Bi2O3

TiO2-CdO

TiO2-SnO2

-5.6(0.060) -8.2(0.053) -8.2(0.05) +3.3(0.022) +1.5(0.025) -3.0(0.064) -3.0(0.018)

ZnO-Al2O3

ZnO-SiO 2

ZnO-ZrO2

ZnO-MgO

ZnO-Sb2O5

ZnO-Bi2O3

ZnO-SnO2 +1.5(0.166) -3.0(0.042) +1.5(0.144) +4.8(0.025) +4.0(0.011) +3.3(0.015) +4.8(0)

Al2O3-SiO2

Al2O3-ZrO2

Al

2O3-Sb2O5

Al2O3-CdO

-8.2(0.340)

-5.6(0.045)

+3.3(0.079)

+1.5(0.070)

*SiO2-MgO

*SiO2-CaO

*SiO

2-SrO

*SiO2-BaO

-5.6

+3.3

+3.3

+4.8

試料 比表面積[m

2 g

-1

] 粒子径[TEM:nm] 最高酸強度[H0] A

B

C

D

E

F(市販品)

335 140 105 94 81 39 5.5 6.5 18.0 19.2 25.4 150-230 -5.6 -3.0 +1.5 +3.3 +4.0 +4.8

試料 比表面積[m

2 g

-1

] 最高酸強度[H0] 酸点密度[molm -2

]

TiO2-SiO2

TiO2-Al2O3

TiO2

SiO2

Al2O3

326 224 120 665 184 -5.6 -5.6 -3.0 +3.3 -3.0 2.68 1.80 3.14 0.62 1.33

− 4 − 26

特集

(8)

図1.「すいせんまつり」出展の様子

メタンハイドレートを題材とするエネルギー教育と地域貢献の取り組み

生物応用化学科 綱島 克彦

1. はじめに

メタンハイドレートは、低温・高圧下の条件下において、

複数の水分子から構成されるケージの中にメタンガスが取

り込まれて生成する包接水和物である。

1,2)

これは天然ガス

成分であるメタンガスが自噴するような海底においても生成

し、特に日本近海の海底には大量に埋蔵されていると推定

されている。この掘削技術開発にはコスト等の課題があるも

のの、採掘が可能となり実用化されれば、資源小国である

日本が資源大国となりうる可能性があることから、メタンハイ

ドレートは画期的な新エネルギー資源として期待されてい

る。さらに、メタンハイドレートは和歌山県沖の南海トラフの

海底にも埋蔵されていることから、和歌山県民の間でも関

心が高まっている。したがって、メタンハイドレートは日本の

エネルギー事情と新エネルギー開発を考える好適な題材

となると考えられる。

一方、本校は平成 27 年度より経済産業省資源エネルギ

ー庁主催「エネルギー教育モデル校」

3)

の認定を受け、工

学教育の一環としてエネルギーに関わる教育および地域

貢献活動を推進してきた。とりわけ和歌山県沖の海底エネ

ルギー資源としてのメタンハイドレートに着目し、これらを題

材とした地域基盤型エネルギー教育の活動として、公開講

座の開催や学生によるメタンハイドレート採掘技術アイデア

コンテストへの応募等を実施してきた。

4)

本稿では、最近の

実践例として、本校主催で実施されたメタンハイドレートに

関する教育や地域貢献活動を紹介する。

2. 本校での取り組み

(1)「すいせん祭り」でのメタンハイドレートの実験展示

平成29年1月29日(日)に白崎青少年の家(和歌山県日

高郡由良町大引)で開催された「第 14回すいせん祭り」の

科学コーナーにて、神戸大学人間発達環境学研究科准教

授・谷篤史博士との合同で、メタンハイドレートの出張公開

展示を行った。当日、多くの小中学生とその保護者が来場

し、メタンハイドレートのサンプルを触ったり、メタンガスが

発生する音を聞いたり、着火実験を観察してもらうことにより、

メタンハイドレートを知ってもらう機会を提供した。また、本

校の本科学生による小中学生へのメタンハイドレートの分

子模型作製のサポートや来場者への採掘技術に関する説

明等も行い、学生参加型の公開展示を実践している。

(2)「わかやま学」での特別講義の開催

「わかやま学」とは、和歌山の歴史、文化や産業などを学

びながら未来の新たな和歌山を考えることを目的とした本

科2年生全員を対象とする通年授業科目である。この特別

講義が、平成29年7月12日(水)に本校において、東京

海洋大学海洋資源環境学部准教授・青山千春博士を講師

として招聘して開催された。青山千春博士は海洋音響学を

専門とし、音響技術を用いたメタンハイドレート賦存量調査

の先駆的研究者として知られている。

5)

講義では、メタンハイドレートとは何か、メタンハイドレート

の日本近海における分布、海底での状態による砂層型と表

層型との違い、メタンハイドレートの掘削技術の現状などか

ら、日本がエネルギー資源大国になる可能性があることを

詳しく説明された。さらに、和歌山県潮岬沖の海底にもメタ

ンハイドレートが存在する可能性が高いという調査結果に

ついても報告された。講義の最後には、日高港新エネルギ

ーパークの協力を得てメタンハイドレートのサンプルの燃

焼実験展示が行われた。受講生の本科2年生は、青白く燃

え上がるメタンハイドレートを見て感激しながら、メタンハイ

ドレートの特性と将来性について理解を深めた。

(3)メタンハイドレート調査船への見学乗船

和歌山県は、青山千春博士(株式会社独立総合研究所)

と共同で、平成24年度から毎年和歌山県潮岬沖でのメタン

ハイドレート賦存状況調査を実施しており、これまでの解析

結果などから調査海域にメタンハイドレートが存在する可能

特集

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図 2.調査船「きのくに」乗船見学の様子

図 3.特別講演会「希望のエネルギー資源 メタンハイドレ

ート」の様子 性が強く示唆されている。平成29年度も7~8月の間に合

計5回の調査出船が行われ、そのうちの3回について、生

物応用化学科教員および本科または専攻科の学生が乗船

して調査の様子を見学した。

和歌山県水産試験場の調査船「きのくに」は、串本港を出

港してから潮岬沖にある探索海域に到達すると、魚群探知

機を使用してメタンプルーム(海底から立ち上るメタンガス

およびハイドレート被膜で覆われたメタンガスの気泡)の観

測を行った。この様子を見学した学生たちは、本物のメタン

ハイドレートが眼下の海底にあることを実感しながら、身近

な和歌山県海域にあるメタンハイドレートをエネルギーとし

て取り出す方策を考察する好機を得た。

(4)特別講演会「希望のエネルギー資源 メタンハイドレー

ト」の開催

わかやま学での特別講義に引き続き、青山千春博士を講

師として招聘し、特別講演「希望のエネルギー資源 メタン

ハイドレート」を開催した(平成29年9月3日(日)、和歌山

県JAビル(和歌山市美園町))。会場には、小中学生とその

保護者を中心に県内外から170名以上もの参加者がつめ

かけ、盛況のうちに開催された。

青山博士は、メタンハイドレートの掘削技術の現状、日本

がエネルギー資源大国になる可能性があること、和歌山県

沖の海底にも多くのメタンハイドレートがあることなどをわか

りやすく説明された。さらに平成 27 年度メタンハイドレート

採掘技術アイデアコンテストで本校学生が優秀賞を受賞し

たことを例示され、若い世代の斬新な発想が今後のメタン

ハイドレートの開発を大きく推進していくことを力説された。

講演の後半では、日高港新エネルギーパークの協力を得

て、メタンハイドレートの実物展示が行われた。参加者は、

冷たいメタンハイドレートを触ったり、ハイドレートに閉じ込

められたメタンが気化するときに発生するパチパチという音

を聞いたり、燃えるメタンハイドレートを観察しながら、貴重

なメタンハイドレートの実物を間近で体験した。

質疑応答では、会場の小中学生から、「メタンハイドレート

は人工的に作れるのか」、「メタンハイドレートは商品化でき

るのか」など多くの質問が寄せられた。参加者はエネルギ

ー資源としてのメタンハイドレートを理解と認識を深めた様

子で、盛況のうちに講演会が終了した。

3. まとめと今後の展望

以上のように、和歌山県に関係の深い題材としてメタンハ

イドレートをとりあげ、本校でのエネルギー教育、および講

演会開催等による啓蒙活動を実施して地域貢献にも取り組

んできた。今後の活動としては、引き続き公開講座や見学

などを通して更なる教育活動を推進し、和歌山県地域への

貢献とエネルギー教育の基盤を固めていく予定である。

謝辞

東京海洋大学准教授 青山千春 博士には貴重なるご講

義ならびにご講演を賜りました。神戸大学准教授 谷篤史

博士には出張公開展示に多大なるご協力を賜りました。和

歌山県関係各位には調査船見学乗船や講演会開催に関

しまして多大なるご協力を賜りました。また、メタンハイドレ

ートの燃料実験に関しまして、日高港新エネルギーパーク

所長 春駒真一 様に多大なるご支援をいただきました。各

位に深く感謝の意を表します。

参考文献

1) “非在来型天然ガスのすべて”, 日本エネルギー学会編,

日本工業出版,p.219 (2014).

2) 菅原 武,大垣一成,化学と教育,60, 8 (2012). 3) エネルギー教育モデル校ウェブサイト:

http://www.energy-modelschool.jp/

4) “「エネルギー教育モデル校」への認定とその取り組み”,

和歌山工業高等専門学校地域共同テクノセンター広報,

25, 5 (2016).

5) 青山千春, 松本 良, 地学雑誌,118, 156 (2009).

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図3.特別講演会「希望のエネルギー資源

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平成28年熊本地震現地調査報告

環境都市工学科 三岩敬孝

1. はじめに

平成28年4月14日21時26分、熊本県熊本地方を震源と

する M6.5の地震(前震)が発生し、その後、4月16日1時

25分、同じ地域を震源とする M7.3の地震(本震)が発し

た。この地震で熊本県益城町では震度7の揺れが2度観測

され、大きな家屋の倒壊等、大きな被害をうけた。

本調査は、本震発生から1週間後の4月23日および24日

の2日間にわたって実施されたものであり、地震の震源で

ある活断層や家屋等の被害について報告する。

2. 調査の概要

(1) 地震の規模および特徴

熊本地震は前述したように熊本県熊本地方を震源として M6.5の前震、M7.3の本震が僅か28時間の間に発生し

た地震であり、前震は日奈久断層帯の活動、本震はそれに

隣接し、連動して発生した布田川断層帯の活動によるもの

とされている(図1参照)。

本地震の特徴は、複数の断層帯が連動して活動したこと

により前震、本震および余震の区別が難しいところや、前

震発生後の余震の発生回数が非常に多いところにある。

(2) 調査のスケジュールおよび調査箇所

本調査は筆者を含めた環境都市工学科の教員2名により

実施した。調査のスケジュールおよび調査箇所は次のとお

りである。

【4月23日(土)】

5時00分~7時45分 博多市より現地へ移動 7時45分~13時30分 南阿蘇村

13時30分~17時00分 移動 17時00分~17時30分 宇土市 17時30分~18時00分 移動

18時00分~18時15分 九州自動車道 18時15分~19時30分 移動 (熊本市泊)

【4月24日(日)】

5時30分~6時10分 熊本市より現地へ移動 6時10分~14時00分 益城町

14時00分~14時40分 移動 14時40分~16時00分 熊本城

16時00分~18時15分 移動 博多市へ

3. 調査結果

(1) 地表に現れた活断層

本地震では、日奈久断層帯および布田川断層帯に沿っ

て、地表面に多くの活断層が確認された。特に多く確認さ

れたのは、益城町および西原村であり、そのいくつかにつ

いて写真1から写真2に紹介する。

写真1および写真2は益城町で確認された活断層である。

広範囲で水田や麦畑を横切るように亀裂が入り、水平方向

に約2mずれている箇所も確認された。

(出典:気象庁第7報4 月16日03 時30 分)

図1 熊本地震の震央分布

写真1 益城町で確認された活断層

いて写真1および写真2に紹介する。

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(2) 家屋の被害

家屋の被害は震度7が 2 度観測された益城町や南阿蘇

村に多く、木造家屋の多くが倒壊もしくは半壊している状況

であった。

写真3および写真4に益城町および南阿蘇村で確認され

た家屋の倒壊状況を紹介する。

(3) 土木構造物の被害

土木構造物の被害として忘れられないのは南阿蘇村にあ

る阿蘇大橋の崩落である(写真5参照)。対岸にある山の斜

面の大規模崩落により阿蘇大橋が落橋、大きな被害を出し

た。また、コンクリート橋梁においても旧耐震基準で設計さ

れ た橋脚に対し て 致命的な 損傷が確認さ れ た( 写真6参

照)。

. 調査報告会

本調査を実施した翌週の4月27日、本校1年生を対象と

して調査結果の速報会を開催した。

報告会では、熊本地震の被害状況だけでなく、南海地震

の発生が懸念されている和歌山県においてどのような防災

対策が必要であるのかについても説明し、防災に対する啓

蒙活動を実施した。会場には1年生だけでなく興味を持っ

た教職員も多く出席し、席がなくなるほどの盛況ぶりであり

地震に関する関心の高さが伺えた。

なお,本調査は大学間連携共同教育推進事業「近畿地

区7高専連携による防災技能を有した技術者教育の構築」

により実施されたものである。

写真5 阿蘇大橋の崩落現場

写真6 コンクリート橋脚の損傷現場

写真7 調査報告会の様子 写真2 益城町で確認された活断層

写真3 益城町で確認された家屋の倒壊状況

写真4 南阿蘇村で確認された家屋の倒壊状況

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家屋の被害は、震度7が 2 度観測された益城町や南 阿蘇村に多く、木造家屋の多くが倒壊もしくは半壊して いる状況であった。

写 真3および 写 真 4に、益 城町 および 南阿 蘇 村 で 確 認された家屋の倒壊状況を紹介する。

土木構造物の被害として忘れられないのは、南阿蘇 村にある阿蘇大橋の崩落である(写真5参照)。対岸に ある山の斜面の大規模崩落により阿蘇大橋が落橋、大 きな被害を出した。また、コンクリート橋梁においても旧 耐 震 基 準 で 設 計 さ れ た 橋 脚 に 対 し て 致 命 的 な 損 傷 が 確認された(写真6参照)。

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新任教員紹介

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越境する子どもの生活実践に関する国際社会学的研究

総合教育科 原めぐみ

1. はじめに

移動する人々についての実証的研究は蓄積されてきた

が、多くの場合、それらは大人中心の議論であった。しか

し、移動するのは大人たちだけではない。親に一緒に国

際移動する子ども、親の移動によって「母国」とは異なる国

で生まれる子ども、家庭内での異文化を咀嚼しながら成

長する国際結婚家庭の子ども、また、政治的背景により移

動を余儀なくされた難民の子どももいる。日本においても、 1990 年代より日系人の帰還、外国人労働者の受け入れ、

また国際結婚数も増加し、その結果として越境する子ども

の数は年々増えている。私の研究は、そんな「越境する子

ども」の政治的、社会的、文化的実践を包括的な国際社

会学の視点から考察し、子どもを含めた移民の社会統合

に向けた移民政策のあり方を考えることを目的としている。

特に近年増加しているフィリピン出身の子どもたちに焦点

を絞って調査を進めている。

2. 方法論

複数の場所で「フィールドワーク調査」を行なっている。フ

ィールドワークとは、実際に研究対象者や団体の生活圏・

活動圏に出向いて行って、インタビューをしたり、様子を観

察したり、調査者自身が活動に参加したり、しながらデータ

を収集する方法である。本研究においては、東京や大阪な

どの大都市、特に在日フィリピン人の多い東海地方や北関

東など、またフィリピンはマニラ首都圏とミンダナオ島のダ

バオ市が主な調査地である。これらのフィールドを往来しな

がら情報収集し、データを整理し、理論とデータとの対話を

深め、記述分析を行っている。

3. 結果

現在、三つの観点から考察している。一つは、国籍法

や入管法つまりは移動する子どもたちの国籍や在留資

格などにまつわる政治構造を分析している。子どもたち

は、国籍あるいは在留資格というツールを以って国境と

いう境界線を超えている。しかしながら、実際には法的地

位によって彼らの文化的アイデンティティが変わるわけ

ではない。むしろ政治構造の隙間を縫いながら、国籍等

を便宜的に対応する子どもたちの主体性が見えてくる。

二つ目に、移動する前後での子どもたちの教育、労働、

階層の変化に注目し、こうした社会構造の変容が子ども

たちの「社会化」にもたらした影響について考えている。

日本でも「子どもの貧困」が叫ばれる中、移民の子どもの中

には貧困家庭で育つものも少なくない。これには移住者で

ある親世代の貧困と労働の問題が根底にある。世帯収入が

低いために教育投資ができず、外国籍の子どもは高校進

学率さえ日本人に比べて低い現状が浮かび上がる。

三つ目に、複数の国にまたがる文化的経験について考

察する。移動に伴い、家族の物理的な離別がある中でも、

テクノロジーの発展に伴うコミュニケーションの迅速化と簡

便化によって、出身国の宗教を含めた文化の維持や世代

継承が容易になっていることが明らかになった。

こうしたデータを積み重ねていくことにより、越境する子ど

もたちの生活実践が立体的に浮かび上がる。こうした実証

的研究は、「外国人労働者」としてしか管理されていない現

行の政策を見つめ直し、生活者としてこの社会に共に生き

る移住者たちのための移民政策の推進に寄与すると考え

られる。

め ぐ み

はら めぐみ

総合教育科 助教

博士(人間科学)

専門分野 移民研究

研究課題 子どもの移動

キーワード 国際社会学、移民研究、フィリピン研究

趣味・最近気になること 多肉植物

政治

文化 社会

政策提言

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コンピュータを用いたシミュレーション手法の果て無き改良

知能機械工学科 山東 篤

1. はじめに

製品が想定した外力に対して健全でいられるかを調査

するにあたり,実大実験に勝る検証方法はない.しかし,そ

のコストと手間を緩和するためにコンピュータを用いたシミ

ュレーションで予測する方法もよく用いられる.有限要素法

は構造物の応力・ひずみ・変位をコンピュータで計算する

手法であり,誕生から半世紀が過ぎた現在も産業界の第一

線で実用されている点は驚愕に値する.

私が活動する計算工学分野では,有限要素法を「基礎と

した」研究が古くから主流となっている.「基礎とした」とは,

有限要素法が苦手とする計算事例において,有限要素法

の理論を少し変化させてそれに特化した新手法を開発す

ることを指している.特に有限要素法において要素の概念

を緩和することに着眼した研究は数十年続いており,有限

要素法に取って代わる汎用性と利便性を持つ新手法が開

発されるまで,この果て無き改良合戦は続くのであろう.

本研究はそこまでスケールの大きなことを扱っているわ

けではない.研究目的は構造物の極一部だけを詳細に解

析するために開発された「メッシュフリー解析法」の一つで

ある重合メッシュ法において,計算過程で行う数値積分の

不具合を幾何学的処理により解決する方法の開発である.

これによりメッシュフリー解析法全般の大きな問題の一つを

解決した.

2. 要素の概念の緩和と数値積分の新たな問題

重合メッシュ法では構造物の節点変位を以下の連立方

程式により計算する.

 

F

  

K U (1)

ここで,

 

U は節点変位ベクトル,

 

F は外力ベクトル,

 

K は剛性マトリックスである.

 

K の一部に連成項と呼ば れる成分が含まれているが,それを計算するためには不連

続な被積分関数を積分しなければならない.一般に不連

続関数の積分では連続な部分領域に分割してそれぞれを

積分し,その総和を厳密解とする.この「連続な部分領域に

分割する」ことがコンピュータ上で困難であった.これまで

は厳密な値が得られないことを承知のうえでこの積分計算

を簡易的に行い,解析結果に予測不能な誤差が現れてい

る状態であった.本研究ではデローニー四面体分割と頂点

群のラベル付けを用いてその問題をほぼ解決した.詳細に

ついては文献1)を参照されたい.

3. 解析結果と考察

既存の積分手法と本研究で開発した積分手法を用いて

同一のモデルを構造解析し,性能を比較する.図1は重合

メッシュ法を用いてマルチスケール解析した,2つの気泡を

持つ構造物の応力分布図である.定性的に比較すると,左

図は本来滑らかであるはずの応力分布に積分精度の不足

により生じたまだらが目立ち,右図はそれが解消されてい

るため滑らかさがよく再現されている.

図1 2つの気泡を持つ構造物のマルチスケール応力解析

(左:既存の積分手法, 右:本研究で開発した積分手法)

4.謝辞

本研究の一部は平成28年度和歌山高専教育研究奨励

費の助成を受けて実施しました.ここに感謝の意を表する.

参考文献

1)山東篤,曲線・曲面境界を有する重合メッシュ解析のた

めの高精度数値積分法,日本計算工学会論文集,論文番

号20170007,2017.5.

さんどう あつし

知能機械工学科 准教授

博士(工学)

専門分野 計算力学

研究課題 メッシュフリー解析法

キーワード 重合メッシュ法,数値積分

趣味・最近気になること テニス,少しの力で鋭い

ショットを打てないかと日々模索中

4. 謝辞

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即時稼働可能なリアルタイム音源追尾システムの開発

電気情報工学科 岩崎宣生

1. はじめに

移動音源追尾は、雑音除去やロボット聴覚の分野で適

用されており、今後のさらなる発展に期待されている。し

かし、既存の移動音源追尾法は、追跡対象に関する事前

知識が必須な上、多くのデータ量と計算量を必要とするた

め、リアルタイムに適用することが難しい。移動音源をリア

ルタイムかつ柔軟に追跡するためには、事前知識が無い

中、短い時間間隔で処理を行う必要がある。

以上の背景のもとで、著者らは、音環境を未知として、

音源の方位をフレーム(64msec)毎に推定する手法を提

案した。本研究では、提案法に基づく移動音源追尾の精

度をシミュレーションにより検証する。

2. シミュレーション環境

シミュレーション環境を図1に示す。シミュレーションは、

単一移動音源からの到来波を2個のマイクロホンで観測す

る場合を想定した。このとき、マイクロホンの間隔を4cmとし

て、その中心から音源を50cm離し、方位を30°〜−30°ま

で と し て 等 速 円 運 動 さ せ た 。 ま た 、 音 源 の 角 速 度 は 10[deg/sec]とした。

3. 結果

シミュレーションの結果を図2に示す。図中の青点は提案

法による音源の方位の推定値、赤線は移動音源の方位の

推移を表した線である。図2から、提案法による音源の方位

の推定値は、移動音源の方位の真値(推移線)とほぼ一致

していることが読み取れる。また、このときの推定値と真値と

の誤差の平均は1.73°、標準偏差は1.52°であった。

以上の結果から、提案法はリアルタイム性を考慮した移動

音源追尾に有効であることが確認された。

4. さいごに

本研究では、提案法に基づく移動音源追尾の精度をシミ

ュレーションにより検証し、その有効性を確認した。今後は、

提案法により追尾可能な音源の速度や移動パターン、さら

には複数音源の追尾に関して検討を進める予定である。

謝辞

本研究の一部は、平成28年度和歌山高専教育研究奨励

研究費によって行われたことを付記する。

図1 シミュレーション環境

図2 提案法による移動音源追尾の結果

いわさき のぶお

電気情報工学科 助教

博士(工学)

iwasaki@wakayama-nct.ac.jp

専門分野 信号処理

研究課題 移動音源追尾、雑音除去

キーワード DOA推定、ブラインド信号分離

趣味・最近気になること ゴルフ

1

即時稼働可能なリアルタイム音源追尾システムの開発

電気情報工学科 岩崎宣生

はじめに

移動音源追尾は、雑音除去やロボット聴覚の分野で適

用されており、今後のさらなる発展に期待されている。し

かし、既存の移動音源追尾法は、追跡対象に関する事前

知識が必須な上、多くのデータ量と計算量を必要とするた

め、リアルタイムに適用することが難しい。移動音源をリア

ルタイムかつ柔軟に追跡するためには、事前知識が無い

中、短い時間間隔で処理を行う必要がある。

以上の背景のもとで、著者らは、音環境を未知として、

音源の方位をフレーム( )毎に推定する手法を提

案した。本研究では、提案法に基づく移動音源追尾の精

度をシミュレーションにより検証する。

シミュレーション環境

シミュレーション環境を図1に示す。シミュレーションは、

単一移動音源からの到来波を2個のマイクロホンで観測す

る場合を想定した。このとき、マイクロホンの間隔を4 とし

て、その中心から音源を 離し、方位を °〜− °ま

で と し て 等 速 円 運 動 さ せ た 。 ま た 、 音 源 の 角 速 度 は

とした。

結果

シミュレーションの結果を図2に示す。図中の青点は提案

法による音源の方位の推定値、赤線は移動音源の方位の

推移を表した線である。図2から、提案法による音源の方位

の推定値は、移動音源の方位の真値(推移線)とほぼ一致

していることが読み取れる。また、このときの推定値と真値と

の誤差の平均は °、標準偏差は °であった。

以上の結果から、提案法はリアルタイム性を考慮した移動

音源追尾に有効であることが確認された。

さいごに

本研究では、提案法に基づく移動音源追尾の精度をシミ

ュレーションにより検証し、その有効性を確認した。今後は、

提案法により追尾可能な音源の速度や移動パターン、さら

には複数音源の追尾に関して検討を進める予定である。

謝辞

本研究の一部は、平成 年度和歌山高専教育研究奨励

研究費によって行われたことを付記する。

図1 シミュレーション環境

図2 提案法による移動音源追尾の結果

いわさき のぶお

電気情報工学科 助教

博士(工学)

iwasaki@wakayama-nct.ac.jp

専門分野 信号処理

研究課題 移動音源追尾、雑音除去

キーワード DOA推定、ブラインド信号分離

趣味・最近気になること ゴルフ

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